【林業から見る嶺北地域】日常の景色に隠された秘密とは?

突然ですが、日本で最も森林率(都道府県の面積に対する森林面積の割合)が高い都道府県はどこか知っていますか??



それは・・・・・。

なんと、高知県なんです!!



農水省によると、高知県の森林率は84%とダントツトップ。

つまり、高知県では日常生活の景色に必ず森林が入っています

しかし、普段からなにげなく眺めている景色というのは、実は林業従事者の方々によって支えられているということを知っていましたか???

「森林なんて自然に任せていれば大丈夫でしょ」なんて思うかもしれませんが、とんでもない!!!

ということで、今回は土佐町で林業を営む河野翼(こうのよく)さんにお話を伺いました!

▽河野さんのインタビュー記事はこちら▽

林業は「間伐(かんばつ)」のくり返し

河野翼(こうのよく)さん
愛媛県宇和島市出身の40歳。営業マン、家具職人を経て、2019年5月より土佐町の地域おこし協力隊に就任。現在は地域おこし協力隊2年目。林業振興事業として林業を学びながら、石原の集落活動センターの支援事業にも携わっている。

ーーー早速ですが、現在の活動について教えてください。

土佐町の地域おこし協力隊として、石原地区で小規模な林業を行っています。

また民家の横に、防風のため植えられた木の手入れなども行っています。

ーーー林業というと、具体的にはどのようなことを行うんですか?

間伐が主な作業となります。

一般的に言われる林業は、何も無い0の状態の土地に苗木を植えるところからスタートします。

ーーーそこから、木が成長していくんですね

木が成長すれば、大きくなった枝葉が隣の木と重なります。

これは人間でいうところの満員電車と同じ。

窮屈なんですね。

ーーーそこで行われるのが…間伐ですか?

はい。いわゆる間引きです。

どれを間引くのかは人によってかなり意見が分かれるところではありますが、基本的に病気だったり傷ついているものが優先的に切られます。

石原地区の林の中

ーーーなるほど…!伐採した木はどこへ運ぶのでしょう?

製材所や木材市場、チップ工場へと運びます。

製材所や市場に運ばれた木材は、建材や合板・集成材の材料に、チップ工場に運ばれたものは細かく砕かれて紙の原料になったりします。

ーーー間伐の後は、どのように進めていくのでしょうか?

同じように、木が成長していけば、また間伐をして…のくり返しになります。

こうして、残った木はどんどん大きくなるんです。

ーーー間伐をするタイミングは決まっているんですか?

木を切るタイミングは自分で決めることが多いです。

野菜などは一年のうち収穫する季節が決まっていますが、林業は周期がもっと長いので、いつ切るかは自由の幅がききます

ーーー林業の哲学は深そうです…。間伐などの作業はどの時期に行われるのでしょうか?

基本的にはお盆〜春先に行います。

ーーーそれは一体、何故ですか?

水分量が関係しています。

木は夏にぐんぐん水を吸います

よって木の皮が剥がれやすく、傷つきやすくなってしまいます。

ーーー冬は、水分量が減るのでしょうか?

そうですね。

お盆終わりから春先までは水分量が比較的少なくなるんです。

ーーーなるほど…。それでは夏場はどういった業務をされているのでしょう?

夏は、草刈りがメインです。

スギなどの苗木よりも雑草の方がぐんぐん成長するため、草を刈らないと負けてしまうんですね。

ーーー林地で行うんですね!草刈りは田畑でやるイメージがありました…!!

ただ夏に炎天下で草刈りを続けるのは、正直きついです(笑)

なので夏場は前職だった家具作りや家具の修復を行い、冬場に林業を行うというのが理想ですね。

ーーー前職は家具職人さんだったんですね!

実家が製材所を営んでいたので、昔から木に触れる機会は多い方でした。

会社の営業職も経験しましたがピンとこず、その後は家具職人として働いていたんです。

家具職人時代の写真


※河野さんの家具職人時代の話は別で取材しています!

ーーーそこから林業に行き着いた…ということでしょうか?

伐採した木を加工する製材所や家具職人を川下と捉えると、川上に向かって興味が移っていったというイメージですね。

また、林業と家具作りの組み合わせにも興味がありました。

ーーーなるほど…!

木を切り出す過程に、魅力が詰まっている

間伐を行う様子

ーーー林業の魅力とは、どういったところでしょうか?

成るようにしか成らないというところですね。

木は上に向かって立っていますが、一本あたりの重量は相当です。

林業は、そうした木をバターンと切り倒すというイメージがありがちなんですが…

実は切り倒すというより、木を寝かせるという方が正しいのかなと思います。

ーーー…というと?

木を寝かせるときには、色々なことを考える必要があるんです。

一つ目に、他の木や地形との関係性です。

木が倒れるときに他の木に擦れてしまうと、その木の皮が傷ついてしまいます。

傷がつくと表面から雑菌が入ることもあるので、注意が必要です。

また倒れた時に石にぶつかってしまうと、倒した木が傷つきますよね。

こうなれば商品としての価値が薄れてしまいます。

ーーー確かに…擦るだけで傷になりそうです…。

二つ目に、木を倒す場所です。

木を倒した後は運び出す作業があるため、搬出のことも考えて木を倒します。

倒す方向一つで、その後の手間が大きく変わってくるんです。

三つ目に安全性です。

自分のところに倒れてきたり転がってきたりしたら命が危ないので、そういった安全面にも配慮する必要があります。

ーーー考えることがいっぱいですね…!!

木は重力に従って、成るようにしか成らない。

だからこそ、物理や力学の法則をきちんと学び、考えて動く必要があります

そうした思考の過程が、林業の面白さかなと思います。

ーーー試行錯誤の過程に面白さがあるんですね…!ちなみに、嶺北の山ならではの特徴はありますか?

地元の愛媛県にある山と比べて、やはり急峻だと感じます。

当然山の中の斜面も急ですし、すぐ近くが崖ということも珍しくありません。

傾斜が急な場所では、特に安全に気をつけています

林業を通して、景観を作る

河野さんが活動する石原地区の景観

ーーーでは最後に河野さんのビジョンを教えてください。

林業を通して、山里の景観を作りたいと考えています。

嶺北地域は良い意味で、あまり開発が進んでいません。

だからこそ、自分が景観にアプローチできると思ったんです。

ーーー景観…ですか。詳しく教えてください!

石原に初めて来たときに、道の脇がとても綺麗にされているな、と感じました。

雑草も生えていないし、ゴミも落ちていない。

むしろ植物や木、花が植えられており、手入れがしっかりされていました。

ーーーなるほど…。河野さんはそこに価値を感じていらっしゃるのでしょうか?

はい。手入れされているのが、1番の価値だなというふうに思うんです。

綺麗にしている山を見て、地元の方がその景観に誇りを感じるようになれば良いなと思っています。

ーーーそれはどのように実現していくのでしょう?

まずは細かい林道をもっと増やしていくことだと思います。

林業関係者だけでなく、住民の方も気軽に出入りできるように林道を整備すれば、手が入れやすくなるんです。

ーーーなるほど!他にはありますか?

林業を通して、山里の景観を少しずつ変化させていきたいと思っています。

今はスギだけの森に見えるところでも、間伐を繰り返すことで森の構成は少しずつ変わっていきます。

その景観の変化こそが手入れをされているということであり、嶺北のような中山間地域の価値に繋がってゆくんじゃないかと思っています。

【取材後記】景観とは、手入れの象徴である

景観は誰かの手入れによって作られる

筆者の私が高知県の嶺北に住んで、もう1年が経とうとしています。

ドアを開けると、そこにはいつもと変わらぬ山々

変化していることなど気付かないまま、日々を過ごしていました。

ですが河野さんのお話を聞き、思い出しました

そう言えば嶺北の大通りには毎日のように木材を積んだトラックが通っていたな…

山の中にも、紅葉が綺麗な部分があるな…

普段何気なく見ていた山には、実は誰かが中へ入り管理し続けていたんですね。

そんな景観の裏側を知ると、今までとは山の見方が変わります

これから、この景観はどのように変化していくのだろう…。

林業から見た嶺北に、また一つ魅力を発見した筆者でした。

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