高知県本山町の奥、汗見川。
この地域で活動する1人の女性がいます。
汗見川ふれあいの郷 清流館の運営や、しそ特産品の開発を行う野尻萌生さんです。
野尻さんは高校時代にタイへ1年間の居住歴があり、その後はグローバルな国際系の大学へ進学。
日本を超えた視野を持つ野尻さんが本山町を選んだきっかけを取材しました。
高校で1年間、タイへ
野尻萌生(のじりめぐみ)さん
福岡県出身。立命館アジア太平洋大学卒業後、2010年に本山町の地域おこし協力隊に就任。協力隊卒業後は汗見川活性化推進委員会に所属し、汗見川を中心に活動している。
ーーー野尻さんは高校生の時にタイで過ごした経験があるんですか?
親の転勤がきっかけで、高校生時代は1年間タイに住んでいました。
そこではインターナショナルスクールに通い、まずは慣れない英語で英語を勉強するという生活でした。
ーーータイへの居住経験で印象に残っていることはありますか?
単純に日々が楽しかったのは覚えています。
また今思えば、学校では日本とは少し違った教育方針が面白かったと思います。
ーーー教育方針の違い…ですか!?
例えば、個人の個性を伸ばそうという雰囲気があったり、演劇の授業があったり、自分の意見を発表する場が多かったり。
こういった経験によって、見ている世界が広くなったと思います。
ーーーその後はどのような進学をされたのでしょうか?
立命館アジア太平洋大学に進学しました。
子どもの頃から国際協力に関心があり、方向性としては国際的な方向に向いていましたね。
在学中は学生NGOに所属し、タイの農村地域に行って子どもたちの教育支援活動などをしていました。
暮らし方や働き方を変えたくて地域おこし協力隊に
ーーー大学卒業後についてどのように考えていましたか?
大学卒業後を見据え、いわゆる就職活動をしていましたが、方向性や方法については常に悩んでいました。
自信が持てず、生きていくことにポジティブになれない気持ちもありました。
ーーー具体的にどのような悩みだったのでしょうか?
高校時代にいたタイでは子どもが物乞いをしていることもあり、学生NGOの活動では、農村地域での貧困問題を目の当たりにしました。
そのような問題は様々な要因がありますが、大量生産大量消費の先進国の暮らし方にも一因があるのではないかとも思っていたんです。
ーーー自分の暮らしはこのままでいいのか?というような迷いがあったんですね。
はい。今の暮らし方を変えていきたいという思いが強くありました。
また「働き方や暮らし方の選択肢はもっとあっていい」とも感じていました。
ただその反面、実現の仕方が分からない。
そんな時に友人から聞いたのが、地域おこし協力隊という制度でした。
ーーー野尻さんにとって、地域おこし協力隊の魅力とは何だったのでしょう?
仕事にしようと思った時、個人事業で行うにしても、NPO団体で行うにしても、スキルが求められます。
なのでスキルを学びつつ、地域づくりが仕事になるのが自分に合っていると思ったんです。
また自然豊かな環境で暮らせるのも魅力です。
協力隊時代に出会った汗見川
ーーー地域おこし協力隊としての活動は何をされていましたか?
特産品づくりの推進で、どぶろくの製造やそば打ち体験のサポートです。
実はこの活動が、汗見川地域に関わることになったきっかけでした。
他には農林業の体験イベントを行ったり、汗見川近くでそばの収穫イベントを行ったりもしました。
ーーー活動当初はどのような気持ちでしたか?
毎日が初めてのことばかりで新鮮な気持ちでした。
全てが新鮮だったので、写真ばかり撮っていました(笑)
1年目は地域を知るのに精一杯という感じでしたね。
ーーー移住後の生活はいかがでしたか?
地域と関わっていく中で色々な仕事が増え、こんな働き方もあるんだと思いました。
様々な仕事をやってみて、たまに体が追いつかなくなる時があるくらいです(笑)
ーーー暮らしについてはいかがですか?
地域おこし協力隊時代は本山町の町中に住んでいましたが、協力隊卒業をきっかけに山奥の汗見川地域へ引っ越しました。
薪を使う生活がしたかったからです。
今では念願の薪ストーブを使って生活しています。
ーーーズバリ、汗見川地域の魅力とは何でしょう?
ありきたりですが、豊かな自然環境と人ですね。
特に汗見川は、シンボル的な存在です。
「今日は天気がいいですね」というように、「今日も川がきれいですね」と言いたくなるくらい身近な存在で、とてもきれいで癒されます。
ーーー本山町の魅力はありますか?
自然に囲まれている一方で、暮らしやすさはありますね。
スーパーや病院、学校など、生活に必要なものが揃っています。
ーーーなるほど…ありがとうございます!
「関わり」の中で広げてきた活動
ーーー野尻さんの現在の活動について、教えてください。
現在は集落活動センター汗見川の活動として、主に2つの活動を行っています。
- 汗見川ふれあいの郷 清流館の運営
- しそ特産品の開発
ーーー汗見川で、しそドリンクですか?!
汗見川は、しそが有名なんです。
汗見川のきれいな水で育った鮮やかなしそを抽出し、地元食品加工会社と連携してしそジュースなど商品化する取り組みを行っています。
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ーーーしそドリンクは、どのような経緯で商品化されたのでしょう?
元々30年ほど前から、汗見川生活改善グループがつくる希釈タイプのしそドリンクが、毎年汗見川で開かれる「高知・本山 汗見川清流マラソン大会」の景品として親しまれてきました。
過疎高齢化が進む中、これを特産品として活かしていこうということで、地元食品加工会社「(有)さめうらフーズ」と連携したシソ特産品シリーズの開発がはじまりました。
またこれを機に、汗見川地域一丸となったしそ栽培が進められてきました。
ーーーその他の活動はありますか?
清流館の運営やしそドリンクの商品開発は、夏場に忙しくなります。
逆に冬季は閑散期になるので、秋から冬にかけては林業も行っています。
また地域で受け継いだ味噌の製造もおこなっています。
ーーー様々な活動をされていますね…!活動はどのように広がっていったのでしょう?
地域おこし協力隊時代に、地域の方と一緒に行ってきた取り組みが発展して今の状態になっている活動もあります。
またお世話になった地域のために時間を割きたいという思いから、汗見川周辺での活動が多いですね。
人との繋がりの中で広がっていったんだと思います。
ーーー活動する上で大切にしていることはありますか?
地域のスピードを意識するように心がけています。
私は本山町の地域おこし協力隊の一期生で、「次はどうするの?」と聞かれることが多かったんです。
ーーー周りの方は期待しているが故に、気になってしまうポイントですね。
将来を期待されている、と焦ることもありました。
ですが、プロジェクトを成功させる過程はじっくり時間をかけた方がいいこともあります。
一人でできることではないので、色々な意見を聞きながら、時間をかけてでも一つ一つの工程を踏んでいくことを大切にしていますね。
地域の魅力を形に、そして仕組みに
ーーーそれでは、これからのビジョンについて教えてください。
まずは地域の特産品を形にしていくということです。
地域での活動はそもそもが課題に対しての取り組みです。
そして課題に取り組みながら継続性を持たせるのはかなり難しいんです。
ーーーなるほど…しそ特産品の開発はかなり大きな意味合いがありそうです。
はい。そういった現状の中で、しそ特産品の事業化は一つ大きな柱となりました。
地域の魅力を発信するだけでなく、地域づくりを持続可能にするという意味で、これからも特産品の開発を続けていこうと考えています。
ーーー他にはありますか?
汗見川地域だけでできることは限られています。
よって地域外の人とも一緒になっていろんな活動に取り組むという仕組みを作りたいと考えています。
関係人口を増やすことで可能性が広がり、次の世代に繋いでいけたらいいなと思います。
ーーーありがとうございました!
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